デビュー以来、数多くのヒット作品を放ち、常に注目される存在で在り続けた宇多田ヒカルが、今年8月に「2011年からしばらくの間、アーティスト活動をお休みします」と自らのオフィシャルHP上で発表した。
「15歳でデビューして、何も分からない状態のまま(音楽活動を)やり始めて、目の前の分岐点に関しては私が「ああしたい」「こうしたい」って言ったことをやってきてたんだけど、それが一体全体どこに向かっているのか、山に向かっているのか崖に向かっているのか分からないまんま、ここまで来ちゃってたんだよね。『行きあたりばったりはうちの家訓だ!』なんて言ってたけど、それが良くない意味で出てた、みたいな? あちゃー、このまま進んでたら崖から落ちてたよっていう状態に気付いて、初めて危機感を覚えたの」
自分はちゃんと一人の人間として自分の力で歩いて来たのかな。アーティストとしては色んな経験をしてきたけれど、もしかしたら偏ったことしかやってこなかったのかもしれないな。宇多田ヒカルの中に湧き起こった想いの"断片"は、09年の春にデビュー10周年を記念して発表した初のオフィシャル・ブック(『点‐ten-』)で彼女が書いた文章の中にもあった。自分が歩んできた過去の様々な出来事を振り返り、今自分が立っている現在を見つめながら書いた文章には、彼女にしか分かり得ない感情を刻んだ言葉がいくつもあった。
「あの文章を書いたのが、一つのきっかけでもあるのかな。自分を見るとか自分と向き合うっていうことの意味では、ああやって記録に残しちゃって消せないものにするっていうのは、その発言に責任を持たなきゃいけなくなるわけだから、その責任と向き合った時に得るものがあったなって思えたのね。今、あの時書いた文章を振り返ってみると、客観的に『私、ちょっと勝手だったな』って思う部分もあるんだけど、モヤモヤを抱えるんじゃなく、ちゃんと吐き出せてたから、自分で自分を再評価出来て消化していけたと思うのね。10年後とかにあの文章を読んだら『アイタタタ~』『あんなこと言ってて恥ずかしい~』とか悶えるかもしれないけど(苦笑)。それも自分が大人になるために、次に進むためにすごく必要なことだったんだろうなって。自分で自分を抑えていて、色んなことを貯め込んで、親にも周りにも見せないようにしていた感情を吐き出せたから。うん。だから、吐き出して良かったんだなって、やっとこさ思える感じがある。そのおかげで次のステップを踏めるかなって思えたの」
今回、活動休止前に発表するベスト・アルバム『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』は、この6年間に発表したシングル曲だけではなく、今まで宇多田ヒカルを応援してくれた人達に感謝の気持ちを込めて作った新曲5曲が収録された。
「新曲は入れたかったの。曲も作りたかったし、言いたいことがあったんだよね。言いたいことがあるって初めてなんだよ。今までは取材とかで『皆さんに向けてメッセージを』なんて言われても、『申し訳ないけど、曲から汲み取ってくれれば良い』って感じで、自分でも実はそんなに分かってなかったのね。でも、今回はすごく大事なことについて考えた。言いたいことが自分の中にちゃんとあったの」
過去の自分が作ったシングル曲からは、この6年間の自分が見えてきた。良いこともそうじゃなかったことも、曲が全部教えてくれた。でも、彼女は今を生きている。これから先の未来を自分の足で歩こうとしている。だからこそ、新曲には"今の自分"をちゃんと刻んで、みんなに届けたかったのだろう。
「『Can't Wait 'Til Christmas』はちょっと別な感じなんだけど、それ以外の4曲は全部同じことの話なんですよ。そういうふうに一貫したテーマがあるのは初めてだし、言いたい事を4曲通して貫いてるから、今までで一番ストーリー性があるのね。自分との和解であったり、過去と和解であったり、『愛するってどういうこと?』とか『愛って何だろう?』とか、自分とホントに向き合うとか、恐怖と向き合うとか、そういうテーマが一貫してあるの」
「嵐の女神」は、宇多田ヒカルが自分の母親に対して今までなかなか素直に伝えることができなかった想いを、「ありがとう」という言葉にすることが出来た歌だ。
「自分と向き合うっていう事の必要性を感じた時に、じゃあ自分を知るってどこから始まるんだろうって思って。やっぱり自分の親を知るというか……、自分を迎え入れるってことは、自分にとって母親を受け入れるってことと同義じゃないかなと思ったのね。その人の子供って状態で生まれてきたんだから、まずそこをクリアしようよ、って思ったの」
力強いバンド・サウンドと意思のある声が印象的な「Show Me Love (Not A Dream)」は、2年前に作っていたデモの段階では、仮タイトルが"PURPLE"だった。
「要するに、自分の中の矛盾が心をどんどん疲れさせてって、エネルギーを奪っていくんだってことを言いたかったの。青信号の『行け』っていうのと、赤信号の『止まれ』っていうのが重複した気持ちが紫色なんだよね。現代社会に生きてる私達って、みんな混乱しているんだなと思ったの。泣きたいのに泣けない、泣き方が分からないってヤバくない? 泣くってさ、食べるとかトイレに行くっていうことと同じくらい大事なことなのに、それが出来ないって、脳で考え過ぎちゃってるんだろうな」
「Goodbye Happiness」は、「『traveling』の時みたいに、元気な曲が聴きたい!」と思って書いた軽快なダンス・ソング。
「ちょっと90年代風の王道ダンス・ソングみたいなのをやりたかったの。アレンジやメロディーは結構王道なんだけど、ベタにはしたくなくて。普遍的なものなんだけど、その中に"私"っていう個性がちゃんと出てくれれば、実験成功かな」
彼女が出演した話題のCM(ペプシネックス)で歌っていた「Hymne à l'amour ~愛のアンセム~」は、フランスのシャンソン歌手・エディット・ピアフの「愛の賛歌」のカバー曲。宇多田ヒカルは、歌詞の一部分を訳詞している。
「私は、原曲の歌詞からフランスの革命の時の有名な絵(注・ドラクロア画『民衆を導く自由の女神』)の女性がいるじゃない? 旗を掲げて、国民を導き、突き進む女っていう姿をイメージしたの。この曲は、ピアフが最愛の人を事故で亡くした直後のものすごい心境の時に書いた曲なのね。私にはそんな経験はないけど、訳詞って彼女のその時の想いをすごく理解しようとしないと出来ないと思ったし、そうやって人を理解しようとすることが、結果的には自分を理解することになるんだなって思えて、すごく良い体験が出来たと思った」
DISC2の最後は、宇多田ヒカル初のクリスマス・ソング「Can't Wait 'Til Christmas」。
「なんか、かわいい曲を作りたかったんだよね。しかも、かわい子ぶってる感じじゃなくて。私自身もそうなんだけど、なんか女の子って強がるじゃない? 自分のかわいさとかを表に出せなくて、確実に自分の中にある乙女な部分を隠して、『私、ヤキモチなんか妬かないわ~』『約束なんかいらないわ~』なんて言っちゃうような。でも、恋愛だけじゃなくても、そうやって自分の中にある一部分を、かわいい部分もおどろおどろした部分も隠すとか否定するってホントに体に悪いと思うの。今まで私も(歌詞や曲で)あまり書いてこなかったと思うんだけど、今なら書ける気がすると思ったんだ」
12月には、国内のコンサートとしては約4年振りとなる横浜アリーナでのコンサートが決定している。
「ホントはツアーをやりたかったんだけど、会場がどこも空いてなくて、横浜アリーナだけになっちゃったのね。でも、たった2日間だけでもコンサートをやりたかったの。なぜなら、歌いたかったから。だって歌手だもん」
转自:http://ent2.excite.co.jp/music/special/2010/utada/interview01.html