なんのアナウンスもないまま、活動休止するアーティストもいるなか、宇多田ヒカルの人間活動宣言の誠実なスタンスに感銘を受けた人も多いだろう。もちろん、しばらく彼女の新曲が聴けないのはさびしいが、そこは、シングルコレクションでありつつ、5曲の新曲が光る今回のアルバムを聴いて、いまの宇多田ヒカルを実感してみてはどうだろうか。
宇多田ヒカルが、自身のオフィシャルホームページ上で、「来年からしばらくの間、アーティスト活動をお休みします」と、突然の報告をした。彼女は今年、UTADAとしてアメリカとロンドンでライブを行ってはいたが、日本での宇多田ヒカルの活動は、2008年にシングル『Prisoner Of Love』をリリースして以来、配信限定曲のリリースはあったもののCD(新曲)は出していなかったし、また、2年前にデビュー10周年を迎えたときも、アニバーサリーイヤー的な行事は(自身初の本を出版したことをのぞいて)なかった。とはいえ、やはり今回の“活動休止報告”には驚きを隠せない。
「10周年のときは、内輪の友だちだけ呼んで誕生日祝いをやった……、みたいな感じだったかな。節目ってさ、迎えたときがメインじゃなくて、節目のあとに何が来るかなんだよね。あとで何か変化が来る、みたいな? でも、何が来るかはわからない。だってまあ、ただやってれば10周年までは迎えることができるんだろうけど、そのあとどうするかだからね。普通は記念コンサートとかいっぱいシングル出したりとかするんだろうけど……、そういうテンションではなかったっていうか。それどころではなかった……かな。なんだろ、すごい普通に、女性としてというか、いち人間として、けっこうキツいタイミングだったから、このまま行ったらヤバい、いままでのやり方じゃダメだ、ちょっと立て直さないとって、初めて危機感を感じてたの。でも、“疲れちゃった”っていうのは、適切な表現ではないかもしれない。逆にいいエネルギーは出てたのね。ただ、そのエネルギーを何に向けたいかっていう問題で……。なんかこう、いろんなことをリセットしたかったんだと思う」
今回の決断は、15才でデビューし、それ以降ずっと日本の音楽シーンのトップにい続けた“宇多田ヒカル”の決断ではなく、アーティストではない自分、つまり“宇多田光”の決断だった。しかし、第三者から見れば、アーティストの宇多田ヒカルも、宇多田光も当然同一人物にしか見えないし、そこに何の違いがあるのかと思うだろう。
「音楽的にはすごく自由にやらせてもらえたし、アーティストとしては成長してこれたんだけども、それ以外の大事な面が、大人になるってことが、けっこうおざなりになっていたんだよね。まあ、人間さ、得意なことばっかりやってても、成長ってないんだよね。なんか、自信とかついていいのかもしれないけど。その人が特殊な能力を持っていたり、向いていることがあったら、それをやってればいいじゃん、それも役割分担じゃんっていうふうにも取られるかもしれないけど。実際さ、できない事もやっていかないと、もうふんづまりだよね。いくら得意なことができてたって、それだけじゃその人の世界が発展しないじゃない?」
今回『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』に、「新曲を入れたい」と提案したのは、彼女だった。
「アルバムをまるまる1枚作るっていう気分じゃなかったのね。だって、それをやったら“またアクセル踏むのかよ”みたいになっちゃうから。でも、アルバムほどではないけど、4、5曲くらい、すごい心を込めて、いい歌作って、出せたらいいかなって。うん。新曲を届ける事の方がファンとしてはうれしいんじゃないかなって。だから、今回のアルバムは新曲がメイン(笑)」
DISC1にはこの6年間に発表したシングル曲が13曲、DISC2には5曲の新曲を収録した。新曲の中の1曲は彼女が出演している話題のCMで流れている『Hymne a l'amour ~愛のアンセム~』だ。
「CMを見たファンの反応のなかに、“あらまあ、色っぽくなったわねえ”って言いながら、おかあさんと見てました、なんていうのもあってさ。だって大人だもーん。27やでぇ~みたいな? でも、CM撮影のときは、季節の変わり目だったせいか、昔折った鎖骨が痛くて“あぁ~痛ぇ~。この季節つらいわあ~”って(笑)」
『Hymne a l'amour ~愛のアンセム~』は、エディット・ピアフのシャンソンの名曲を、ジャズ風にアレンジし、歌詞の一部分を宇多田ヒカルが訳詞したカバー曲。
「自分の考えついたアイデアをパッて言うのって意外に簡単なんだけど、ほかの人がやってることをちゃんと理解して、またほかの人にわかるように説明したり教えたりするのって、すごいその人の気持ちをわかってなきゃできないじゃん? このピアフの曲は、彼女が最愛の人を事故で亡くした直後のものすごい心境で書いた曲でしょう? 私はそんな経験はないけど、ホントに理解しようとする気持ちっていうのが、結果的に自分を理解しようとするってことにつながるんだなって、すごいいい経験になった」
ところで、DISC2の1曲目『嵐の女神』から4曲目『Hymne a l'amour ~愛のアンセム~』までの4曲の歌詞には、“一貫したテーマ”があるのだとか。
「この4曲って、全部同じことを言ってるのね。自分との和解であったり、過去との和解であったり、“愛するってどういうこと?”とか“愛って何だろう?”とか、そういう自分とちゃんと向かうこととか、恐怖と向き合うとか、そういうテーマが一貫してある。ホントに言いたいことっていうのを4曲をとおして貫いたっていうのって初めてだし、いちばんストーリー性があるの」
『嵐の女神』の歌詞は、自分と向き合う前には自分を生んでくれた母親のことを知り、まず親を受け入れるところから始めなければ、自分のことなんて知ることなどできないという思いから書き始めた歌詞だった。『Show Me Love(Not A Dream)』では、“壁をぶち破って突き進んで行く”“自分を解き放つ”という現在の自分の気持ちを、歌詞だけではなく激しいサウンドでも表現した。そして、『Goodbye Happiness』は「自分のテンションを上げるじゃないけど、元気な曲が聴きたい!」と思って作り始めた曲。
「なんかね、全部自分に対して言ってるんだよね。うん。私が私に言ってるって感じ。作曲っていうのはすっごい無意識でもできる作業で、そうあるべきでもあると思ってるんだけど、作詞は絶対しらふじゃないとできないし、非常に意識的な作業なんだよね。問い詰めたり、考えたり、答えを求めたり、答えが出なかったり……。“matterする”って日本語でなんて言えばいいんだろ。つまり、大事なこと、どうでもよくないことについて、ちゃんといまの私が一生懸命に考えた歌詞なのね。だから、いままでにないくらい、みんなに伝わればいいな、聴いてほしいって気持ちがこもってるの」
『Can't Wait'Til Christmas』は、宇多田ヒカル初のクリスマスソング。
「自分ひとりでやってて、だれにも聴かせないような前提で音楽を作ってたとしたら、クリスマスソングなんて書かないんだけど、みんなにちょろっとプレゼントしたいなあと思って。私の曲を待っていてくれる人たちの存在があるから出てくるものの、最たるものなのね、こういう曲って」
活動休止前の12月には横浜アリーナで2日間のライブが予定されている。
「愛情表現って言ったら変かもしれないけど、感謝の気持ちをいくら“ありがとう”って言っても伝わらなかったりもするから、行動を起こしたいなって思って。会場が空いてなくて横浜アリーナだけしかできないけど、みんなの前で歌いたかったんだよね。だって歌手なんだもん」
(インタビュー・文 / 松浦靖恵)
(转自: http://smash.music.yahoo.co.jp/pow_dtl/itv/powyjm00407/1/)
宇多田ヒカルが、自身のオフィシャルホームページ上で、「来年からしばらくの間、アーティスト活動をお休みします」と、突然の報告をした。彼女は今年、UTADAとしてアメリカとロンドンでライブを行ってはいたが、日本での宇多田ヒカルの活動は、2008年にシングル『Prisoner Of Love』をリリースして以来、配信限定曲のリリースはあったもののCD(新曲)は出していなかったし、また、2年前にデビュー10周年を迎えたときも、アニバーサリーイヤー的な行事は(自身初の本を出版したことをのぞいて)なかった。とはいえ、やはり今回の“活動休止報告”には驚きを隠せない。
「10周年のときは、内輪の友だちだけ呼んで誕生日祝いをやった……、みたいな感じだったかな。節目ってさ、迎えたときがメインじゃなくて、節目のあとに何が来るかなんだよね。あとで何か変化が来る、みたいな? でも、何が来るかはわからない。だってまあ、ただやってれば10周年までは迎えることができるんだろうけど、そのあとどうするかだからね。普通は記念コンサートとかいっぱいシングル出したりとかするんだろうけど……、そういうテンションではなかったっていうか。それどころではなかった……かな。なんだろ、すごい普通に、女性としてというか、いち人間として、けっこうキツいタイミングだったから、このまま行ったらヤバい、いままでのやり方じゃダメだ、ちょっと立て直さないとって、初めて危機感を感じてたの。でも、“疲れちゃった”っていうのは、適切な表現ではないかもしれない。逆にいいエネルギーは出てたのね。ただ、そのエネルギーを何に向けたいかっていう問題で……。なんかこう、いろんなことをリセットしたかったんだと思う」
今回の決断は、15才でデビューし、それ以降ずっと日本の音楽シーンのトップにい続けた“宇多田ヒカル”の決断ではなく、アーティストではない自分、つまり“宇多田光”の決断だった。しかし、第三者から見れば、アーティストの宇多田ヒカルも、宇多田光も当然同一人物にしか見えないし、そこに何の違いがあるのかと思うだろう。
「音楽的にはすごく自由にやらせてもらえたし、アーティストとしては成長してこれたんだけども、それ以外の大事な面が、大人になるってことが、けっこうおざなりになっていたんだよね。まあ、人間さ、得意なことばっかりやってても、成長ってないんだよね。なんか、自信とかついていいのかもしれないけど。その人が特殊な能力を持っていたり、向いていることがあったら、それをやってればいいじゃん、それも役割分担じゃんっていうふうにも取られるかもしれないけど。実際さ、できない事もやっていかないと、もうふんづまりだよね。いくら得意なことができてたって、それだけじゃその人の世界が発展しないじゃない?」
今回『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』に、「新曲を入れたい」と提案したのは、彼女だった。
「アルバムをまるまる1枚作るっていう気分じゃなかったのね。だって、それをやったら“またアクセル踏むのかよ”みたいになっちゃうから。でも、アルバムほどではないけど、4、5曲くらい、すごい心を込めて、いい歌作って、出せたらいいかなって。うん。新曲を届ける事の方がファンとしてはうれしいんじゃないかなって。だから、今回のアルバムは新曲がメイン(笑)」
DISC1にはこの6年間に発表したシングル曲が13曲、DISC2には5曲の新曲を収録した。新曲の中の1曲は彼女が出演している話題のCMで流れている『Hymne a l'amour ~愛のアンセム~』だ。
「CMを見たファンの反応のなかに、“あらまあ、色っぽくなったわねえ”って言いながら、おかあさんと見てました、なんていうのもあってさ。だって大人だもーん。27やでぇ~みたいな? でも、CM撮影のときは、季節の変わり目だったせいか、昔折った鎖骨が痛くて“あぁ~痛ぇ~。この季節つらいわあ~”って(笑)」
『Hymne a l'amour ~愛のアンセム~』は、エディット・ピアフのシャンソンの名曲を、ジャズ風にアレンジし、歌詞の一部分を宇多田ヒカルが訳詞したカバー曲。
「自分の考えついたアイデアをパッて言うのって意外に簡単なんだけど、ほかの人がやってることをちゃんと理解して、またほかの人にわかるように説明したり教えたりするのって、すごいその人の気持ちをわかってなきゃできないじゃん? このピアフの曲は、彼女が最愛の人を事故で亡くした直後のものすごい心境で書いた曲でしょう? 私はそんな経験はないけど、ホントに理解しようとする気持ちっていうのが、結果的に自分を理解しようとするってことにつながるんだなって、すごいいい経験になった」
ところで、DISC2の1曲目『嵐の女神』から4曲目『Hymne a l'amour ~愛のアンセム~』までの4曲の歌詞には、“一貫したテーマ”があるのだとか。
「この4曲って、全部同じことを言ってるのね。自分との和解であったり、過去との和解であったり、“愛するってどういうこと?”とか“愛って何だろう?”とか、そういう自分とちゃんと向かうこととか、恐怖と向き合うとか、そういうテーマが一貫してある。ホントに言いたいことっていうのを4曲をとおして貫いたっていうのって初めてだし、いちばんストーリー性があるの」
『嵐の女神』の歌詞は、自分と向き合う前には自分を生んでくれた母親のことを知り、まず親を受け入れるところから始めなければ、自分のことなんて知ることなどできないという思いから書き始めた歌詞だった。『Show Me Love(Not A Dream)』では、“壁をぶち破って突き進んで行く”“自分を解き放つ”という現在の自分の気持ちを、歌詞だけではなく激しいサウンドでも表現した。そして、『Goodbye Happiness』は「自分のテンションを上げるじゃないけど、元気な曲が聴きたい!」と思って作り始めた曲。
「なんかね、全部自分に対して言ってるんだよね。うん。私が私に言ってるって感じ。作曲っていうのはすっごい無意識でもできる作業で、そうあるべきでもあると思ってるんだけど、作詞は絶対しらふじゃないとできないし、非常に意識的な作業なんだよね。問い詰めたり、考えたり、答えを求めたり、答えが出なかったり……。“matterする”って日本語でなんて言えばいいんだろ。つまり、大事なこと、どうでもよくないことについて、ちゃんといまの私が一生懸命に考えた歌詞なのね。だから、いままでにないくらい、みんなに伝わればいいな、聴いてほしいって気持ちがこもってるの」
『Can't Wait'Til Christmas』は、宇多田ヒカル初のクリスマスソング。
「自分ひとりでやってて、だれにも聴かせないような前提で音楽を作ってたとしたら、クリスマスソングなんて書かないんだけど、みんなにちょろっとプレゼントしたいなあと思って。私の曲を待っていてくれる人たちの存在があるから出てくるものの、最たるものなのね、こういう曲って」
活動休止前の12月には横浜アリーナで2日間のライブが予定されている。
「愛情表現って言ったら変かもしれないけど、感謝の気持ちをいくら“ありがとう”って言っても伝わらなかったりもするから、行動を起こしたいなって思って。会場が空いてなくて横浜アリーナだけしかできないけど、みんなの前で歌いたかったんだよね。だって歌手なんだもん」
(インタビュー・文 / 松浦靖恵)
(转自: http://smash.music.yahoo.co.jp/pow_dtl/itv/powyjm00407/1/)